続きです。(前回の記事はこちら)
二回目のCMが明け、インタビューもだんだん終盤に近付いてきました。アルフレドの質問もさらに熱を帯びてきます。
ふたたび彼らの曲の歌詞に触れるアルフレド、マンソンが文学から影響を受けているのではないかと推測し、影響を受けた人物を挙げてほしいとたずねました。もし自分が何らかのアーティストだったら、自分のセンスをアピールするためにも一度は聞かれてみたい質問です。これに対しマンソンは、「文学に関しては『The Satanic Bible』を著したアントン・ラヴェイと、『キャット イン ザ ハット』のドクター・スースから大きな影響を受けたよ」。それを聞いて、「変な組み合わせだね」とふふっと笑うアルフレド。かたやサタニズムの教本、かたや子供向けの絵本ですから、確かに面白い組み合わせですね。組み合わせで勝負するとは、さすがマンソン、センスが違います。
一方、音楽面で影響を受けた存在としては、イギー・ポップとデヴィッド・ボウイ、アリス・クーパー、ブラック・サバスの名を挙げています。本人が「正統派のバンドが好き」と語るのも納得のチョイスですが、ここはぜひ、トゥイギーの答えも聞いてみたかったですね。
話題は、彼らが共演中のダンジグとのツアーにうつりました。「グレン・ダンジグは面白い人生哲学を持った人物だよね。彼と意見交換する機会はあった?」と、ツアー中のエピソードをたずねるアルフレド。マンソンに向けた質問ですが、なぜかこのタイミングでトゥイギーが真剣に耳を傾けています。
マンソンの答えは、「彼のバスの運転手と裸になったよ」。グレンとはそこまで親密な時間を共有できなかったようですが、それよりも「バスの運転手とぼくたちで、一緒に裸になったんだ。彼、人を縛るのが好きなんだと思う」と、顔色ひとつ変えずに奇妙な運転手のことを語りました。おそらくこの運転手は、マンソンの自伝にも出てくるトニー・ウィギンズのことでしょうね。
ここでトゥイギーが、おそらくトニーと裸になった時の状況について、ぱっと左手を上げて何か補足してるのですが…
残念ながら、何度見ても、彼がジェスチャーで何を表しているのかが分かりません(笑)。最初、部屋の中にトニー・ウィギンズ本人がいて彼を指さしているのかとも思ったのですが、そういう感じでもなさそうですよね? 「シャッ」みたいな言葉をつぶやいていますが、それもはっきり聞き取れず。シャットダウン? ここはぜひアルフレドに拾ってもらいたかったところですが、悲しいことに優秀なアルフレドはすでに、トゥイギーの言動を受け流すというテクニックを身につけてしまっているため、何も触れずに次の話題に移ってしまいました。トゥイギー、いったい何を伝えようとしたんでしょうね!?
変な回答に引きずられることなく、きっちり真面目な方向にインタビューの流れを戻すアルフレド、今度は彼らの作品やマンソン本人が持つ二面性に触れました。悲観的でありながら同時にハッピーな印象を受ける…と、なかなか鋭い指摘です。アルフレドの質問に対し、その矛盾こそがマリリン・マンソンであり、相容れない二つのものを合体させることが自分の人生の軸になっている、と熱く語るマンソン。
さらに「悲観的に聴こえるけど、聴く人間に喜びをもたらしてくれる」と、彼らの音楽に対して最大級の賛辞を送るアルフレドに、「そうだね、ぼくは惨めな人間じゃないよ。自分の人生やアメリカに対する考えを語っているんだ」。アメリカという国はめちゃくちゃだけど、そこが素晴らしいんだ…と絶好調のマンソン。トゥイギーもこの通り、彼のスピーチを神妙な面持ちで聞いています。
さて、マンソンへの質問が終わったら、次はもちろんトゥイギーの番です。アルフレドが彼にたずねたのは、「ラテンアメリカについて何か知ってることはあるかな?」。
マンソンが見守る中、顔色一つ変えずに静かな声で質問に答えるトゥイギー。その答えは…
出ました! トゥイギーお得意の、冗談か本気か分からない冗談です。アルフレドが即座に「違うよ」と否定している通り、もちろんどちらのバンドもラテンアメリカ出身ではありません。というかエディ&ザ・クルーザーズは、同名映画の中の架空のバンドであり、実在すらしてません。…ということに筆者は最初気付かず、ここはわりと普通に受け答えをしているのかと思っていました。ビージーズって実はラテンアメリカ出身だったのか?と驚いて、わざわざ検索したんですけど…。だまされました!
息を吐くように適当な発言をするトゥイギーと違い、質問にはちゃんと答える主義のマンソンが例によって後を引き取ります。が、大まじめに「ニワトリを殺すんだよね?」と、少々怪しいことを言い始めました。「どこで? ラテンアメリカで?」と聞き返すアルフレドに、横からトゥイギーが「蛇と踊るんだよね」。トゥイギーはともかく、少なくともマンソンはふざけているわけではないようで、「ニワトリを殺して、血を浴びるって聞いたんだけど」。もう、カオスです。
一応「そういう場所もあるけど、かなり野蛮な所じゃないかな」と否定はしないアルフレド。ぜひ見てみたい、とサングラスの奥で目を輝かせるマンソンの夢を壊さないように…という優しい配慮からでしょうか。それとも、さすがのアルフレドも、彼らにまともに応じる気力が尽きてきたのでしょうか?
おそらく後者の可能性が高そうです。アルフレド、「最後の質問だよ」と番組を締めにかかりました。「ナイン・インチ・ネイルズの音楽をどう思う?」と、賢明にも、彼らの頭からニワトリと蛇を引き離そうとしました。この質問なら、二人ともまともに答えてくれそうですね! が、アルフレドが何でも優しく受け止めてくれることに安心してか、完全に調子に乗ってる彼ら。
まず、マンソンが「好きだよ」と超適当に答えたのに続き、トゥイギーも…
何言ってるんでしょうね!? そのままマンソンが、「トゥイギーは一度、ナイン・インチ・ネイルズと演奏したことがあるんだ。指を骨折したギタリストの代わりを務めたんだよ」。で、「そのギタリストは指を怪我する前、ぼくたちのステージに乱入してきてね。ズボンを脱いで、ぼくと重罪を犯したんだ」。言うまでもなく、このギタリストはロビン・フィンクのことですね(笑)。
「その話、読んだことあるよ」と、それ以上は掘り下げないアルフレドはやはり賢明です。そして見せる、このほがらかな笑顔!
おそらくこの後に『March Of The Pigs』のビデオを流すようで、「では、ナイン・インチ・ネイルズに行くよ」と大急ぎで語り(逃げ)ながら、丁寧にマンソンとトゥイギーの二人にお別れの挨拶をするアルフレド。「どうもありがとう。会えて嬉しかったよ」とまずはマンソンと固い握手を交わしました。アルフレドが「素晴らしいアルバムだね」と素敵な一言をつけ足したのを聞き逃さず、きちんと「ありがとう」とお礼を言っている律儀なマンソン。
で、次はトゥイギーに握手を求めるアルフレドですが…トゥイギーの握手スタイルにご注目ください。
アルフレドの腕のたくましさもあいまって、握手というより、手を取り合う二人みたいな図になってしまっているのが笑えます。トゥイギーの動きが妙に優雅なんですけど…なんなんでしょうね、これは(笑)。利き手の右手ではなく左手を使ったのは、単にアルフレドに近かったからか、それともばんそうこうを貼った右手を守りたかったのでしょうか。最後の最後まで優しいアルフレドが、おそらくその右手の怪我のことを気にかけて「トゥイギー、お大事にね!」と親指を立てて声をかけました。無言でうなずくトゥイギー。
というわけで、インタビューが終わりました。新人バンドらしい初々しさを漂わせつつも、絶妙のコンビネーションでふざけ倒すトゥイギーとマンソンが最高でしたね。記事の最初にも書きましたが、とにかくアルフレドがトゥイギーにちゃんと質問を振り続けたのが、トゥイギーの面白さが存分に引き出された一番の理由でしょう!
別の場所でアップされている同じ動画のコメント欄に、「アルフレドは、トゥイギーはそれほどクレイジーではなく、演じているキャラクターのようなもので、裏ではもっと普通の人だったと語っています」というコメントがありました。もしこれが事実なら、もしかしたらアルフレドはインタビュー前にトゥイギーが普通に話す様子を見ており、そのせいで戸惑っていたという可能性も出てきます。「え? なんか人格変わった!?」とアルフレドが混乱していたとしたら、それも含め、トゥイギーの悪ふざけ成功ですね(笑)。
以上、エンドロールに流れるマリリン・マンソンのライブ映像で、いきなりトゥイギーが跳びはねるところが使われているのもトゥイギーファンとしては嬉しい、「ラテン版 ヘッドバンガーズ・ボール」でした。
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