「Guitar World」1996年12月号のインタビュー後半です。(前半はこちら)
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――『Antichrist Superstar』はコンセプト・アルバムなのでしょうか?
M:ぼくは自分の人生がひとつのコンセプトだと考えていて、そのサウンドトラックがこのアルバムなんだ。聴けば、物語が展開していくのがはっきり分かるはずだよ。今回扱ったコンセプトって、世の中の大半の人にとっては、ぼくを単なるキャラクターってことにした方が受け入れやすいのかもしれないね。でも、ぼくにとってはすごくリアルなものなんだ。どう解釈するかは、人によって違うだろうね。作品で語ってることが現実になるかどうかは、アメリカ次第だよ。今回のアルバムをみんながどう受け入れるのかによって決まるからね。
――アルバムは、黙示録的な作品?
M:いろんな意味で、そうだと思うよ。それが自意識のハルマゲドンなのか、それとも物質界の破壊という意味なのかどうかは分からないけど。反キリスト者の神話は、単に神を信じていない人の物語だっていう可能性もあるよね。自分たちを反キリスト者に仕立てるのさ。ぼくは自分のことを、個人を目覚めさせる存在だと思ってるよ。今回のレコードは、堕天使という古典的な物語を別の解釈で表現したものなんだ。
――ニューオーリンズでのレコーディングはいかがでしたか。
M:ニューオーリンズはこの世の地獄にいちばん近い場所だから、レコーディングにはすごくふさわしかったと思う。アルバム制作中、ぼくたちは世界から隔絶された状態だった。どこにも行かなかったんだ。といっても、ニューオーリンズには行く場所が二つしかないんだけどね。バーと墓地だよ。
T:ぼくたちはフロリダ出身だけど、フロリダって、65歳になった人が死にに行く場所なんだ。ニューオーリンズは、20歳になった人が死ぬための場所だよ。
――あなたたちが墓地で骨を集めてるって話を聞きましたが。
M:うん、トゥイギーは骨を集めるのが大好きだったんだ。
T:大きな袋に入れてたんだよ。ニューオーリンズから引っ越す時に、アパートのマットレスの下に置いてきちゃったけど。
M:その骨が、ぼくたちが火をつけた元ドラマーの骨だっていう噂もあったよ。確かめようがないけどね。ぼくは、そういうものを集めるのが好きなんだ。これは、チベットの死の儀式で使われる猿の頭蓋骨さ。ただ、トゥイギーが夢中になって集めていたのは、ニューオーリンズの住民の遺骨だったよ。
T:1800年代のね。
――ニューオーリンズの土は、かなりぬかるんでいますよね。
T:そうなんだ。骨が地面から飛び出てるんだよ。簡単に拾えるよ。
M:彼、骨を「一服」したこともあるんだ。
――楽しんだ?
T:自分の家でこっそり吸ったわけじゃないよ。他のみんなに吸わせたから、ぼくもちょっとやらざるを得なかったんだ。
M:でも、吸った価値はあったよ。その日の夜、一緒に『1996』を書いたからね。あの曲はテンポが速いから、骨は、スピード感に何かしら効果があったんだろうな。
T:焦げた髪の毛みたいな匂いがしたよ。髪に火をつけた時みたいな匂いだよ。
――あなたたちは「アンチクライスト」ですが、それだけでなく、グランジに対するアンチテーゼも体現しているのでしょうか。
M:グランジは今じゃもうレトロな音楽だから、また流行すると思うんだ。そうしたら、また好きになるだろうな。グランジって、「おれたちにはカラクリはない」っていうカラクリを使ってたんだ。バンドのイメージがないっていうイメージを使ってたんだよ。ぼくたちは、そういうのに対するアンチテーゼなんだろうね。ロック・スターという地位を否定してないんだ。ぼくは、子供の頃にデヴィッド・ボウイやアリス・クーパー、イギー・ポップ、ゲイリー・ニューマン、さらにアニー・レノックスといった、アイコンとして強烈な存在感を放っていた人たちから多くのインスピレーションを受けたよ。だから、その流れを自分が引き継ぐのは、自然なことなんだ。ぼくたちメンバー全員にとって、バンドのイメージと音楽とは密接に関わっているものなんだよ。どちらも、同じぐらい重要なんだ。名プレイヤーや優れた音楽性を持った人たちって、イメージを軽視しがちだよね。だけど、ぼくにとってはとても重要なんだ。
――その通りですね。ロックはパフォーマンスですから。
T:レイ・ソーヤーは、そのことをちゃんと分かっていたよ。
M:ドクター・フック&ザ・メディスン・ショーのレイ・ソーヤーのことだね。ぼくは彼が、あのアイパッチ姿になりたくて自分で目をくり抜いたと思ってる。
T:ドクター・フックは大好きなんだ。彼、足も一本ないんだよ。『Sloppy Seconds』は、彼が出したレコードの中でもダントツで最高の一枚だよ。
M:あのレコードでは、未成年とのセックスのことが語られてるんだ。コカイン乱用やアルコール依存症の話もたくさん描かれていて、『Looking For Pussy』っていうボーナストラックで締めくくられるんだよ。気分は悪くなるけど、素晴らしい作品だ。
――まさに70年代ですね。享楽的な時代でした。
M:そろそろ、あの時代が復活すると思うんだけどね。
――自分たちの活動に当てはめてみて、「ショック・ロック」という言葉をどう思いますか?
M:ただショックを与えたいだけなら、今よりはるかに攻撃的なこともできただろうね。ぼくはみんなが注目するやり方で自己表現してるだけで、ショッキングであること自体を目的にしたことはないんだ。ぼくがやってることは、自分を表現してみんなに聴いてもらうための手段なんだよ。今って見るべきものがたくさんあるから、その中で爪痕を残すには、作品をかなりパワフルなものにしないといけないんだ。
――アリス・クーパーとKISS、精神的にあなたたちと近いのはどっち?
M:それは何とも言えないね。目指しているスケール的には、KISSかな。アリス・クーパーの音楽は大好きだけど、ステージ上のキャラクターと普段の彼がかけ離れているってことに、いつも少し失望してたよ。子供心ながらに、がっかりしてたんだ。ぼくは、ステージ上の自分とステージにいない時の自分が別人だと思うことはないからね。もちろん、マリリンとマンソンっていう二面性はあるけど。さらに今回のアルバムでは、マリリン・マンソンとアンチクライスト・スーパースターという二つの人格に分かれてる。そういうわけで、「この人格の時のぼくはこうでなくちゃ」なんてふうに自分を限定する必要なんてないと思ってるよ。
――では、イギー・ポップとニューヨーク・ドールズでは?
M:もちろん、イギー&ザ・ストゥージズだね。ぼくらは、90年代のストゥージズ(間抜け)さ。イギーたちって徹底したニヒリズムの持ち主で、ファッションや音楽スタイルなんてものは完全に無視してたんだ。彼らのアルバムのミックスはひどいけど、だからこそ素晴らしかったよ。今回のアルバムに収録されている曲『1996』は、かなりストゥージズっぽいんだ。何にも縛られていないノイズ感や、混沌としたギターソロがね。
――バウハウスなど、ゴス系のバンドにはハマったのでしょうか?
M:バウハウスは、ぼくたちがどんな時も愛してやまないバンドのひとつだよ。
T:ギターとベースの組み合わせに関しては、ダニエル・アッシュとデヴィッド・Jからすごく大きな影響を受けたんだ。
M:バウハウスはずっと好きで、ジョイ・ディヴィジョンもわりと好きだったんだ。でも、ぼくが大きな影響を受けたのは、ジギー・スターダスト時代のボウイと『ダイアモンドの犬』だな。今回のレコードでは特に影響を受けてる。
T:実はダニエル・アッシュとデヴィッド・Jは、ぼくたちがレコーディングしている時に立ち寄ってくれたんだ。ダニエルは、「スパイダー」って呼ばれるのが好きなんだよ。
M:なんでか分からないけどね。
――これまで、マリリン・マンソンをターゲットにしてより多くの嫌がらせをしてきたのは、極右派と極左派、どちらだと考えていますか?
M:どちらとも言えないな。今回のレコードは、きっと両方から非難を浴びると思うけど。ぼくにとっては、願ったり叶ったりさ。ぼくはバランスを愛してるからね。誰を怒らせようかと相手を選ぶなんていう差別をするのは好きじゃない。ぼくは、みんなを怒らせたいんだ。
――あなたたちがショックを受けるものは何?
T:「ショッキング」という言葉の定義が分からないよ。
M:タバコを吸ってる人を見てショックを受けることもあれば、ショッピング・モールに行って、最近の人たちの服装にショックを受けることもあるよ。TVのトークショーにもショックを受けるね。みんなの知性は、ぼくが普通だと考えているラインよりもはるかに低いんだ。大学進学適性テストの成績を、死刑宣告に直結させるべきだよ。一定のスコアに届かない人間を、処刑してしまうのさ。
――そんなこと言ってると、大統領選に担ぎ出されてしまいますよ。
M:あと、楽器を購入する際の「醜形法」みたいなものがあってもいい気がするね。見た目が悪い人は、ギター購入が禁止されるのさ。ただし、ぼくたちみたいにめちゃくちゃ醜ければ、話は別だよ。それって全然別の次元のことだから。
T:かなり醜くなくちゃいけないよ。
M:桁外れにね。
――前科はありますか?
M:二度、逮捕されたことがあるよ。もう一回捕まるはずだったんだけど、現場から逃走したんだ。
――ステージ上でのふるまいが原因?
M:うん。犯罪行為なら他にも日常的にやってるけど、ステージ以外では一度も逮捕されたことないよ。
――ステージで何をやったんですか?
M:一回はマスタベーションをしたってことで告発されたんだけど、事実じゃないんだ。裸になってただけで、マスタベーションはしてないよ。それからフロリダで逮捕された時は、ステージでジョックストラップを穿いてて、お尻の割れ目がまったく覆われてなかったんだ。で、どうやらそれが法律違反らしいんだよ。これがフロリダさ。
――ジム・モリソンが逮捕された時みたいですね。あいつら、相変わらず同じことをやってるってことですね。
M:そうだね。面白みのかけらもないよ。アメリカ国旗も、何度も燃やしては逃げたな。ツアーをやるようになる以前、まだ地元バンドとしてフロリダで活動していた頃はステージ上でセックスしたこともあったし、何度も他の人と裸になったよ。逮捕はされなかったけどね。
――刑務所に入った感想は?
M:まあ、友達はできなかったね。あいにく、ぼくは顔中口紅まみれで、革のパンツにプロングのバンドTシャツを着てたんだ。ある意味、その格好で運が良かったのかも。みんな、何かをうつされるのを恐れてぼくをレイプしようとしなかったから、困ることもなかったよ。特に問題はなかったな。楽しくなかったし、もう一度経験したいとは思わないけど、大したことなかったね。
――あなたたちを追いかけるグルーピーたちの行動について教えてください。
M:いろんなバリエーションがあるね。トラックの休憩施設には、『フィル・ドナヒュー・ショー』でぼくたちを見たっていう年配の女性が時々いるんだ。何度かトイレに誘い込まれそうになったこともあるよ。40代ぐらいの女性たちだよ。
T:その年配の女性たちが、娘さんを連れてることもあるよ。ホテルのロビーで、娘と自分をぼくたちに差し出してくるんだ。
M:あとは、若い男の子たちも必ずいるね。サインをたのむ時に、キスもしてくれと言ってくるんだ。いろんな人たちがぼくたちを追いかけてくれるけど、それって変な感じだよ。だって自分では、ぼくたちがそれほど魅力的だと思わないからね。ただ、自分たちらしく振る舞おうとはしてるよ。
――Zim Zumはどうやって見つけたんですか?
M:アルバムの制作中にオーディションをおこなったんだけど、そこに彼がシカゴからやってきたんだ。アルバムの一曲目を演奏するよ。まだ録音はしてないけどね。
T:ぼくたち、タイムトラベルの正体を解明したんだ。すべては、電波みたいなものなんだよ。
M:この話、分かりやすく説明するのが難しいんだよね。キーボード担当のメンバーが、古いヘブライ語のカバラ思想とか数秘術とか、そういう彼にしか分からない複雑な方程式を駆使してコンピューターを使ってるんだ。ところがドラッグの過剰乱用と相まって、ぼくたち、いろんな時代の出来事をキャッチして、録音できるようになっちゃったんだよ。『Irresponsible Hate Anthem』は来年の2月に録音したし、『Antichrist Superstar』では、ドイツのハンブルグでウィーン少年合唱団を録音したんだ。だから、その…分かるよね? 昨日、ある映画を観たんだけど、それを観たら自分は気が狂ったわけじゃないって思えたよ。想像力を充分に働かせたら、現実と非現実の境界は交錯して、入れ替わる気がするんだ。あのディズニー映画『サンタクローズ』みたいなバカげた作品ですら、信じることで物事は現実になるっていうテーマを扱っているんだよ。それこそ、ぼくたちにとって鍵となるものなんだ。
――あなたの両目がそんなふうになった理由を教えてください。
M:それは謎のままにしておこう。言えるのは、ぼくにまつわるものは全て偽物ってことだよ。髪の色もそうだし、整形手術だって受けた。耳たぶを切除したし、自分を欠陥品にするために目を傷つけた。ぼくの人生は、自分をわざと非対称にするための過程なんだ。最終的には、手足かどこかを切除することになるかもね。というのも、義肢にすごく魅了されていて、大量にコレクションしてるんだ。
T:義手と義肢にすれば、もっと長生きできるよ。
M:不死の存在になれるんだ。身体を全部偽物のパーツにすることだってできるよ。
――ハロウィンの予定は?
M:ニュージャージーでライブをやるよ。とくに変わったことは起こらないんじゃないかな。
——だとしたら、そっちの方が怖いですけど。
M:ハロウィンって、いつも変な感じなんだ。つまり、ぼくたちが大好きな祝日の一つではあるけど、ある意味、ぼくたちは毎日がハロウィンだからね。どこに行っても、コスプレをしてると思われちゃうんだよ。それが面白く感じる時もあれば、うっとうしく感じることもあるね。何か食べに行くだけなのに、「サーカスはどこ?」とか「何を観に行くの?」とか聞かれちゃうんだ。こっちは、「サンドイッチを買いに行くところだよ」って答えるんだけどね。
——マリリン・マンソンの次なる目標は?
M:巨乳!
T:ぼくたちの体に、って意味だよ。
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以上がインタビューです。記事そのものは約12ページにわたる大ボリュームなのですが、残念ながら、上に紹介したものと前回の記事に載せた見開きのもの以外、写真は掲載されておらず…。パジャマでくつろぐマンソンと全身ブラックでコーディネイトしたトゥイギーの姿、ぜひ見てみたかったですね!
ちなみに、表紙に使われている写真のオリジナル画像を見つけました。
体をぐるぐる巻いているケーブルのはじっこを、マンソンがさりげなく持っています。トゥイギーが着ている服の模様が気になるのですが、何の柄なのかはっきりしません。花柄? ちょっとタトゥーぽく見えますね。
さて、かなり自分たちを追い込んだことが伝わるアルバム制作風景から、尊敬するミュージシャンの話、さらに人骨を吸った感想まで読み応えたっぷりの今回のインタビュー。少しだけ、補足しておきたいと思います。
まず、トゥイギーがマンソンに出会った頃に在籍していた「ライバル」のブラックメタル・バンドとは、Amboog-A-Lardのことですね。もともとはマリリン・マンソンよりもAmboog-A-Lardの方が人気が上だったそうなので、トゥイギーの移籍はイメージとしてはリンゴ・スターがビートルズに加入した時みたいな感じだったのでしょうか。両バンドを知るファンの人たちの目には、なかなか思い切った決断に見えたかもしれませんね。
トゥイギーがヘルペスにかかった地元の女の子たちの名前を熱唱するミセス・スキャブツリーの映像は、DVD『Demystifying The Devil(邦題:悪魔降誕)』(2000年)で見ることができます。
バックにマンソン&ザ・スプーキー・キッズをしたがえ、当時の恋人ジェシカ(Jack Off Jill)と一緒に楽しそうにステージで叫んでいます。あの動画サイトにも短い断片が漂っているので、ぜひ「Mrs.Scabtree」で検索してみてください。
また、トゥイギーが敬愛するドクター・フックのレイ・ソーヤーはこちら。
そして、こちらがバウハウス/ラヴ・アンド・ロケッツのダニエル・アッシュ。
レコーディング現場にダニエル・アッシュとデヴィッド・Jが遊びに来ていたというエピソードには驚きました。すごいですね! いったいどんな会話を交わしたんでしょうか。バウハウスに関しては、トゥイギーはナイン・インチ・ネイルズ在籍時の2006年にピーター・マーフィーと共演しています。こちらで記事にしているので、あわせてお楽しみください。
『Angel With The Scabbed Wings』といえばなんといってもあの印象的なギター・リフですが、ダニー・ローナーが手がけていたことを筆者は今回のインタビューで初めて知りました。ギターのパートって、そんなにすぐ作って弾けるものなのでしょうか!? おそろしい才能ですね。トゥイギーが寝不足だったおかげで生まれたこのリフ、ぜひ一度だけでも、ダニーとトゥイギーがステージで一緒に演奏する姿を見てみたかったですね。
若いファンだけでなく、お母さん世代のファンも魅了したという『フィル・ドナヒュー・ショー』は、マリリン・マンソン、そしてトゥイギーのテレビ出演史における金字塔のひとつです。早くこのブログでも取り上げたいと考えているのですが、なにしろ「真面目な討論番組」なので、英語を聞き取るのに苦戦しています(泣)。2022年中に紹介できるといいのですが…。
それにしてもさっぱり理解できないのが、最後の方のタイムトラベルのくだりです。すでに終わっているレコーディングを「これからやる」と言ったと思ったら「来年録音した」と言ったりと、何が何だか分かりません。ドラッグの力で、脳が時空を超えるレベルまで覚醒したってことでしょうか…? もはや、映画『アルタード・ステーツ/未知への挑戦』の世界です。
理解しようとするとますます混乱してきたので、このあたりで記事を終えることにしましょう。
以上、いろいろ謎は残りつつも、二人の口から語られる『Antichrist Superstar』の制作過程が楽しいGuitar Worldのインタビューでした!
★★目次★★